会長挨拶

日本は今、新たな産業基盤を創生すべき時に来ています。戦後日本は、鉄鋼、エレクトロニクス、自動車という3つの基幹産業を柱に、「工業生産力モデルの優等生」として外貨を稼いで国を豊かにすることに邁進してきました。しかし、世界のGDP(国内総生産)に占める日本の割合が18%とピークだった1994年から、2020年には6%にまで落ち込んでいることが象徴しているように、基幹産業は競争力を失い、世界経済における日本の経済・産業の存在感は急速に失われつつあります。日本の置かれた現実を直視し、過去の成功体験の残影に引きずられることなく、「健全な危機感」を持つことが重要です。

2019年末から始まったコロナ禍は、日本が構造的に抱え込んでいる様々な問題をあぶり出しました。国民の生命を守るために必要な医療資機材(マスク、防護服、人工呼吸器等)の大半を海外に依存している実態、ワクチンの開発や獲得の戦略、医科学政策における課題や医療行政の限界等、日本の医療分野における課題が数多く露呈しました。また、コロナ禍の中、2021年に東日本大震災から10年の節目を迎えました。コロナ等の感染症だけでなく、この10年の間、日本は地球環境異変を背景にした風水害、そして大地震等の数多くの自然災害を経験し、防災のあり方についても視界に入れなくてはならない状況です。

このような問題意識に立った時、日本は、経済的な豊かさを追求する産業から、国民に安全・安心と幸福をもたらす産業へ大きくパラダイムを転換すべきだと考えます。いま我々に求められているのは、日本の産業の現場で蓄積している知見や技術など個別の要素を組み合わせ、「全体知」に基づく広い視野の下、国民の安全・安心と幸福を図る具体的なプロジェクト(産業)を生み出す「総合エンジニアリング力」を持つことです。そのためには業種・業界の壁を越えた連携が必要であり、民間主導で付加価値の高い事業を創出し、産学官の連携や国民参加による産業構造の構築を促していくことが急務です。また、プロジェクトの推進には、下支えする情報基盤(データベース)が重要であることは言うまでもありません。

今般、同じ問題意識を持つ民間企業を中心に、(公社)日本医師会、(公社)日本歯科医師会、(公社)土木学会等の協力を得て「医療・防災産業創生協議会」を立ち上げました。また、本協議会をバックアップする超党派の国会議員連盟も立ち上がりました。密接な関係にある医療と防災を新たな基幹産業と位置づけ、日本の防災力、産業力を高めるための大きな構想を視界に入れながら、日本再生の基点となる、国民の安全・安心と幸福のためのソーシャル・エンジニアリング(プロジェクトの社会実装)を多彩なパートナーとともに創生していきます。